イギリス南部の土壌
ブドウ品種
1) イギリス南部の土壌
イギリス南東部は、かつてはフランス北部と繋がっていたと推定され、その土壌において、シャンパーニュ地方とこれほど似ている地域は世界でも例がないと言われています。
一口にシャンパーニュ地方と言っても、その土質は様々です。が、大まかにとらえると、白亜質石灰質(チョーク)の土壌が広がっています。太古の昔の海洋微生物の化石を多く含む、海のミネラル豊富な地質です。イギリス南部も同様に白亜石灰質の土壌が広がり、さらに南東部、特にサセックスやケントに広がるサウスダウンズ周辺には、グリーンサンドと呼ばれる地質が所々に存在します。
サウスダウンズは、イギリス南部をハンプシャーからサセックスにかけて東西110㎞ほどに走る、小高いチョーク質の丘です。グリーンサンドは、その白亜石灰質(チョーク)地質の下に堆積していて表層のチョークが侵食された場合だけ地表に出現します。
グリーンサンドは、グロコナイトまたは海緑石(かいりょくせき)と呼ばれる地質からなる海洋堆積物で、イギリス南東部のものは白亜紀初め頃のものと推定されています。このグリーンサンド、石灰岩と同じく通常は海底で見られる地質であり、その昔、イギリス南部・サウスダウンズの丘も海の底にあったことが分かります。イギリス南部には、海由来の化石・ミネラルを豊富に含む土壌が広がっているのです。気候だけではなく、この土壌もシャンパーニュ地方との大きな共通点です。(ドーセット州などの南西部海岸線も石灰質土壌ですが、こちらはジュラ紀に堆積したもの)
一般的に、石灰質の土壌は、保水力がある一方で水はけがよい事が特徴です。その粒子構造から毛細管現象*が起こるため、ぶどうの木の根っこは土中の水分を強い力で吸い上げなくてはならず、常に程よい水分量が維持されます。さらに、その根が土中深くに力強く発達し、土中のミネラルを吸収しながら成育します。このため、石灰質の土壌は良質のワインを作るために最適とされています。この土壌で収穫されたぶどうから作られるワインには、酸味・凝縮された果実味に加え、finesse -繊細さや優雅さ- があることが広く知られています。
ところで、グリーンサンドはその名の通り元々は緑灰色の砂ですが、風化により白っぽく変色します。この土壌は、鉄分やカリウムを豊富に含み、有機栽培農法で肥料や水質を変える素材として一般的に使われています。また、その適度な保水性を生かして、昔から鋳型製造にも使用されています。白亜質土壌と点在するグリーンサンド、これがイギリス南東部を特徴づける土壌と言えるかもしれません。
*毛細管現象: 紐を水に入れると水が紐の繊維を伝わって上下に移動するが、これと同様の現象が土中で起こる。
2) イギリスで栽培されているブドウ品種
スパークリングワインに使われる品種
PDO(原産地呼称の規定)で使用が認められている品種
シャンパン品種 (主流)
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シャルドネ Chardonnay
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ピノ・ノワール Pinot Noir
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ピノ・ムーニエ Pinot Meunier
さらに3種類
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ピノ・グリ Pinot Gris
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ピノ・ブラン Pinot Blanc
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ピノ・プレコス Pinot Noir Précoce*
ラベルには”English (またはWelsh) Quality Sparkling Wine”と表記される
スティルワイン(泡なし)に使われる主な品種
PDO / PGI (Protected Geographical Indication: PDOより緩やかな規定)の下では、約90品種の使用が認められている。PGIの場合はスパークリングワインを造る際にも約90品種の使用が可能。
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バッカス Bacchus
(Silvaner/Riesling 交配種 x ミュラー トゥルガウ交配)
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セイバル・ブラン Seyval Blanc
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ミュラー・トゥルガウ Muller-Thurgau (Riesling x Madeleine Royale交配)
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ピノ・ノワール Pinot Noir
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ドルン・フェルダー Dornfelder など…
ラベルには”English (またはWelsh) Regional Sparkling Wine” ”English (またはWelsh) Regional Wine” と表記される
*ピノ・プレコスは、ピノ・ノワールの変異体。ピノ・ノワールに似た赤いベリー系の風味を持つが、凝縮感に欠ける。ドイツでは、ファーブルグンダー(Furburgunder)と呼ばれ主にドイツ西部で栽培されている。